メルヘン侍、時雨れて候
ご隠居は割れた湯飲み茶碗を片づけているところだった。

「ご隠居、犬が、犬が傷だらけなんだけど犬が」

ご隠居のメルヘンさんを見る視線に怯えた犬は、くぅーんと鳴いてメルヘンさんの胸元に顔を埋めた。

「知らん」

ご隠居はまた、茶碗のカケラを片づける作業に戻った。

抱きかかえた犬はとても熱く、はぁはぁと荒い息づかいと

破片に破片を重ねる音だけがした。
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