メルヘン侍、時雨れて候
「な、なんですか、さっきから
ここ最近のご隠居いったいなんなんですか?」
「なにが?」
「ご、ご隠居は、僕のことが嫌いですか?」
「ああ、あやまりもしないおまえさんがキライだね」
キライという言葉が胸に突き刺さった。
胸に出来た小さな穴から、気持ちが溢れ出して穴を広げていく。
「ずいませんでじだ」
「ちょ、なんだい、なんだい、え? なにも泣くこと無いじゃないですか、ええ? わしが、あやまらしてるみたいじゃないですか」
ご隠居がどんな顔をしているのか見れなかった。
「だけど… だげど…」
「だけどなんだい? いきなり汚い犬を連れてきて、ええ? ケガしてるとか、エサになりそうなもんをくださいとか。いきなりおしかけて
あのね、メルヘンも休み休みにしときなさいよ」
流れる涙を拭きもせずにメルヘンさんは、うろたえるご隠居を見つめた。
「わだじのごどがぎらいでも、わだじの書ぐ話はぎらいにならないでくだサイ!」
勢いよく頭を下げた。その切れ味は凄まじく、犬とご隠居の目は丸くなった。
「ずいまぜん」
「ずいまぜんじゃないよ! ドアもひとりで直すのね、ほんとたいへんだったんだからね?」
「ずいまでん」
「ずいまでんじゃないですよ! 安い居酒屋みたいになってるじゃないかい。ええ? 聞いてる? 犬がケガしてるとかじゃないでしょう」
「すいこでん」
「そのまんま言ってるんじゃないよ。ええ? おもいつきだけで言ってるんじゃないよ。おまえさんの一番悪いところだ。ちったぁ考えてからモノを話しなさいよ。ええ? いつも下書き無しの直接入力じゃないか。そういうところがだめなんだよ」
「ダメダメいわないでぐださいよぉ。そんなごど、あっしがいちばんわかっでんでずがら、ダメとかいわないでくだざいよぉ!」
メルヘン侍は立ち上がり、本来刀が刺さってある部分に手を掛けて目を閉じた。
両手を天高く突き上げて、それを開いて。静止させた。
「フライングゲット」
ああ、それがやりたかっただけかとご隠居と、そして犬までもが思った。
そして、フライングゲットのポーズのままメルヘン侍の口が開いた。