メルヘン侍、時雨れて候
「なんだい。なんだい。さっきから言いたい放題いってくれるじゃないか? ええ?」

目を細め、少し気持ち悪い顔をしながらボソボソとつぶやきだした。

「このメルヘン侍という話は、もともとはよ、マヌケなメルヘン侍が、巨大なモノをとんちんかな切り口で出鱈目に斬ってね。 ああ、出鱈目だけど、あながち間違いでもない。もしかしたらこれこそが物事の本質であり、そうなるとひょっとしてメルヘンさんを書いてる人ってのは、とても頭がいいんじゃないかな。かっこいい人なんじゃないかなと。抱かれてみたいな。ペロペロされてもいいな。お金貸してもいいな。とか。そういうコンセプトの話だったんじゃないのですかい?」

「な、なんのはなし?」

「うるさいよ。いざ、尋常に勝負しろよ かたなをぬけぇ ごいんきょぉ!」

「かたなをぬけぇじゃないですよ」

「いいから、最終回らしく斬られろってんだ」

「なにを、なにをいってんの?」

「言葉で人を斬るんだよ。アンタを越えたいんだよ。そういうことなんだろう?

さぁ! 構えろよ、ちくちくちくちく嫌味ばかり言ってないで、殺す気でかかってこいよ!」

呆れたように首を振り、ご隠居は息を吐き出した。

「やれやれ、しょうがないですねぇ」と首をゴキゴキと鳴らした。

カッと目を見開き、息を大きく吸い込んだ。

吸い込むごとに、ご隠居の着物が隆起しだした。

首筋には血管が浮き、ぼこ、ぼこという音とともに筋肉という筋肉が、別の生き物のように蠢く。

胸の筋肉が更に隆起し、メルヘンさんを無意識に後ずさりさせた。

そして、閉じられた薄い唇が僅かに開いた。
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