メルヘン侍、時雨れて候
『よし、メルヘンさんよ。
まずは、大きい物をザックリと斬る練習でもしてみるかな』
「ええ?
まずは小さくて弱いのからがいいなぁ」
『いやいや、あんがい小さい物ってのは、すばしっこい。それに的も小さいのじゃ』
「なるほそー」
『それに小さいものが斬れなかった時にだ。
おぬし、しばらく寝込むじゃろ? メンタルちょー弱いんだから』
「はい、この5年間、ほとんど壺の中に入っていました」
『ふーん』
「ふーんってなんですか!
やっと出てきたんだから!
もっとやさしくしてくださいよ!
僕にやさしくしてよ!」
『うぬ。うーん 大きくて…偉い物…、何か思いつくか?』
「エバンゲリオン」
『おお、いきなりきたね。ボケとかクッションなしでダイレクトできたね。相当語りたかったんだね。誰も話を聞いてくれなくて寂しかったんだね』
「もう、めんどくさいですよご隠居」
『お、おう』
「大きいものとかってフリでさ、あっし、和田アキ子ぐらいしか思いつかないのですよ。
なら、言わない方がマシでげしょ?」
『お、……おう』
「面白いかどうかなんてね、この際どうでもいいんですよ」
『う、うん。あのね、何しにきた?』
「ご隠居、見ました?」
『いや、何を?』
「エバンゲリオンですよ! アッコにおまかせなわけないでしょう! 劇場版アッコにおまかせはちょっと見たい気もしますけど」
『吉村明宏が使徒化するのな』
「早速はじめてもいいですか?」
『おほん。では、はじめてみようか』
ご隠居の顔は穏やかではなかった。やさしくメルヘンさんの冗談に乗っかって、馬鹿にされるように腰をくだかれてイライラとした。歳を取っても、いや、歳をとるほどこういう部分は敏感になるのだなと思った。上手くなったのは極力顔に出さないスキルぐらいなもんで、まだまだ自分の未熟さに呆れ、照れ笑いをするご隠居であった。