涙と、残り香を抱きしめて…【完】
___ 次の日
少し寝不足の俺は、朝食もそこそこにマンションを出る。
昨夜はあのブラックスーツの女の顔がチラついて
なかなか寝付けなかった。
「俺はウブな中学生か?」
自分にダメ出しをしながら
スマホのナビを頼りに地下鉄の駅へと急ぐ
会社までは、地下鉄で3駅
地上に出ると、乾いた冷えた風が吹き抜けていく…
もうすぐ今年も終わる…
今年の年末は、女っ気無しかもな…
なんて思うと、またあの女の顔が浮かぶ。
「ちくしょう…勘弁してくれよ…」
ピンク・マーベル
デザイン企画部
気合いを入れてドアを開けると
雑然としたフロアに居た社員数人が
同時にこっちを向いた。
「あ、あぁぁぁーっ!!
な、成宮…蒼さんだぁー!!」
「ヤだ…本物?」
「成宮さんがウチの会社に来るって話し…
ホントだったんだ…」
舞い上がってる女子社員を押し退け
あのトンチンカン新井が俺目掛けて突進してくる。
「お早うございます。成宮部長補佐!!
昨日、親しくなった新井です」
「親しくはなってない…」
「あ、あははは…
そうですか…」
すると、シュンとした新井をつき飛ばし
女子社員達が俺を囲む。
「あの…私、成宮さんの大ファンなんです」
「えっと…サ、サインとか…頂けませんか?」
「私もお願いします!!」
東京の業界とは全く違った雰囲気に
少々、戸惑ってると、オフィスのドアが開き
誰かが俺の名を呼ぶ。
「成宮部長補佐…」