涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「ほーっ…。デザインだけで一杯一杯のお前に出来るのか?
やらなきゃいけない事は山ほどあるんだぞ」
仁のバカにした様な言い方に、成宮さんも意地になってるのか「やってやりますよ!!」と即答してる。
「そうか…。じゃあ、明日から始まる撮影の手配はどうする?
モデルが居ないからって、延期は許さないぞ!!」
「モデル…」
「そうだ。明日までに、ここに居る誰もが納得出来るモデルを連れて来れるのか?」
押し黙る成宮さん。
でも、直ぐに顔を上げ、静かに答えた。
「モデルなら、居ますよ。
最高のモデルが…」
「何?」
「ほら、アンタの目の前に…」
成宮さんが指さしたのは…
「島津星良…最高のモデルだ」
えっ…私?
オフィスがシーンと静まり返り、全員の視線が私に向けられた。
「何言ってるの…?成宮さ…」
「ダメだ!!」
仁の怒鳴り声が私の声を掻き消す。
「島津はダメだ!!絶対に…ダメだ」
「なんでですか?彼女は元モデルだ。
それに、この企画のイメージにピッタリ合う。
なあ、新井!!新井もそう思うだろ?」
えっ?なんで…新井君?
すると新井君が親指を立て「はい!!大賛成っす」と元気に答える。
そして、明日香さんまでも「それはいいわ!!」と拍手をし出した。
その拍手が伝染していく様に、一人…また一人と増えていき、オフィスに居る社員全員に広がっていく…
「どうです?水沢専務、ここに居る全員が納得しましたよ。
それに、ここの責任者は俺です。
俺がモデルを選ぶのは当然の事でしょ?」
得意げにそう言う成宮さんを、鬼の形相で睨む仁。
そして、一言…
「…島津をモデルにしたら…俺は、お前を許さない…」
そう吐き捨てると、オフィスを出て行った。