涙と、残り香を抱きしめて…【完】
仁の姿が消えると、張り詰めていた緊張の糸が切れた様にオフィスが安堵の空気に包まれる。
社員達の顔に笑みが漏れるが
私は、笑えない…
あんな仁、初めてだ。
情け無用って感じで、私をあっさり切り捨てた。
そこには愛情の欠片も感じられず
既に仁の心が私から離れてしまった事を認めざる得なかった。
「星良ちゃん…大丈夫?」
明日香さんが私の背中をソッと撫でてくれてる。
「あ…すかさん、私…」
色んな想いが入り混じり涙が溢れ出す。
「なんにも言わなくていいから…
でも、専務ったら、どうしちゃったのかしら?
星良ちゃんを企画から外したらどうなるかくらい予想出来るはずなのに…
企画を潰そうとしてるのは、むしろ専務の方だわ。
悔しいけど、責任者は成宮部長補佐に任せて
様子を見るしかないわね…」
「でも私、今更モデルなんて…無理だよ」
そう言って眼を伏せると、成宮さんが私の肩を叩き「心配すんな」と微笑む。
「星良は十分、モデルとして通用する。
なんたって、今回の作品は、お前に似合う様デザインしたんだ。
星良以上のモデルは存在しねぇよ」
その言葉を聞いた女子社員達が騒ぎだした。
「成宮部長補佐…それって、部長のことが好きってことですか?」
「あ、あぁ。俺と星良は付き合ってるからな」
「ええぇーーっ!!マジすかぁー?」
大声を上げたのは、新井君。
なぜか彼は成宮さんにしがみ付き大絶叫。
すると明日香さんが神妙な顔して小声で聞いてくる。
「…星良ちゃん、ホントなの?
じゃあ、専務とは…」
「仁は私の事…本気じゃなかった。
それが分かったから…
仁にとって私は、ただの遊びの女でしかなかったんだよ」
「だから成宮部長補佐と?」
「彼は本気で私を想ってくれてる。
彼と居ると、幸せな気持ちになれるの」