涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「そう…」
納得いかないのか、明日香さんは歯切れの悪い返事を返すとため息を付く。
でも直ぐに真顔になり、成宮さんを呼ぶと
明日の撮影の話しを始めた。
私を置き去りに、どんどん話しが進んでいく。
ちょっと待ってよ。まだモデルをするって決めてないのに…
私が戸惑い「自信が無い」と呟くと、怖い顔の明日香さんに一喝され
成宮さんには「悔しくないのか?」と聞かれた。
「悔しい?」
「そうだ!!水沢専務を見返してやろうって思わないのか?」
「それは…」
正直言って、そんなに熱くなれない…
半分、どうでもいいなんて思ってる自分が居る。
そんな私の気持ちを察したのか…
明日香さんが私の顔を覗き込みニッコリ笑うと…
「星良ちゃんの気持ちは分かるわよ。
でもね、あなたがモデルやってくれないと、星良ちゃんはもう、この企画に参加出来なくなる。
成宮部長補佐がデザインの仕事をしながら、こっちの仕事を掛け持ちするのはハッキリ言って不可能よ。
でも、モデルとしてでもあなたがここに居てくれたら、彼のフォローしてもらえる。それなりに相談にも乗れるでしょ?
それに皆だって、安心して仕事が出来る。
ここに居る全員が、星良ちゃんを慕って付いて来た人達なんだから…」
「明日香さん…」
「専務が何考えてるか知らないけど、何が何でも企画を成功させないと…
それが星良ちゃんの仕事でしょ?
それとも、全て投げ出して皆を置いて逃げるつもり?」
明日香さんの言葉で眼が覚めた様な気がした。
例え、今までみたいに部長として関われなくても、モデルになれば、少なくても皆の傍でアドバイスくらいは出来る…
仁を見返すとか、そんなんじゃなく
皆の為に頑張りたい…
そう思えた。
「明日香さん、私…モデルやるから…」