涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そして私は、緊張の朝を迎えていた。
モデルとしての一日が始まる…
今回はPR用だから、スタジオ内のセットでの撮影
裏方として何度も来てた場所
また自分が華々しくライトを浴びることになろうとは…
思いもしなかった。
ピンク・マーベルに入ることを決めた時から、私はモデルとして生きるという夢を封印し生きてきたから…
8年ものブランクは不安だったけど、カメラの前に立つと、意外にもワクワクして気持ちが高揚していくのが分かった。
なんだか20歳の頃の自分に戻ったような…
一番、輝いていた私に…
そう、仁と出逢ったあの頃に…
あ…。
私ったら、何考えてんだろう…
仁の事は、もう忘れようって決めたのに。
気持ちを切り替え最高の笑顔をファインダーに向ける。
「いいねぇ~星良ちゃん!!すっごくいいよー」
カメラマンは偶然にも、私がピンク・マーベルの専属モデルをしてた頃にお世話になってた安部さんだ。
私の泣き顔を撮ってくれた人
連続して響くカメラのシャッター音と、肌を焦がす熱いライトの光
この感覚…懐かしい…
安部さんがリクエストする大胆なポーズも難なくこなし、遠巻きに眺めていた成宮さんと明日香さんに笑顔を向けると、2人とも満足そうに頷いている。
撮影は順調に進み次のランジェリーに着替える為、控室に行こうとした私に安部さんが話し掛けてきた。
「でも驚いたなぁ~星良ちゃん、今の方が昔より断然いいよ!!
モデルとしても魅力が増してる。
今回だけじゃなくモデル続けたら?」
「そうね。考えとく」
気分良く成宮さんとスタジオを出ようと歩き出した時だった。
重い鉄の扉が開き男性が飛び込んで来た。
あれは…
「…仁?」