涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「な、話しが違うだろ?
そんな事、聞いてない!!」


俺を呼びに来たのは
最初にヘッドハンティングの話しを持ち掛けてきた
社長秘書の田村だった。


険悪なムードの社長室
俺は怒りに震えていた。


「新規事業で、大人の女性向けのデザインを頼むと…」

「その通りです」

「インナーって、どういうことだよ?
俺に下着のデザインをしろって言うのか?」


声を荒げ、企画書を床に叩き付ける。


「はい…
我が社は、ティーン向けの衣料で業績を上げてきました。

これからは、20代後半から30代の大人の女性をターゲットにしたランジェリーにも力を入れていく予定です」

「それがなんだ?
俺は若手のデザイナーの中ではトップクラスの人間だ。

それが…インナー?ランジェリー?
バカにするにもほどがある」


すると今まで黙って話しを聞いていた
水沢専務が口を開く。


「自信がないのか?」

「はぁ?」

「確かに君は、昨年のファッション業界では注目の的だった。
でも、今年は何をした?

賞を受賞してからの君の活躍と言えば
マスコミの露出が増えただけで
肝心のデザインはパッとしない。

このままじゃ、君はこの業界から…消えるよ」

「ぐっ…」


図星だった…


自分でも気付いていた事。
が、認めたくなくて、あえて考えないようにしてた。


それをこうもハッキリ言われるとは…


「私達はね、そんな君にチャンスをあげようと言ってるんだ。
インナーなんてと言うかもしれないが
これが成功すれば、君の評価は必ず上がる。

それとも、戦わずして去るか?
君が決めたまえ」





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