涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「…似合わない?それが答えなの?」

「そうだ。お前はモデルには向いてない。
恥をかくだけだ」

「…そんな風に…思ってたんだ…」


彼の考えていることが、少し分かった様な気がした。


「私はもう、素敵じゃないんだね…?」

「はぁ?なんのことだ?」


覚えてないんだ…
8年前、自分が言った言葉を…
モデルの私を"素敵だ"と褒めてくれたことを…


その言葉に縋(すが)り、今まで生きてきた私って、なんておめでたい鈍感女なんだろう…


自分のバカさ加減に呆れてしまう。


「仁の中で私は、終わった女なんだね」

「何言ってる?」

「モデルとしても…女としても…終わってたんだ…」

「星良?」


あなたの気持ちが分かって、スッキリしたよ。仁…
これからは、仁の女としてじゃなく、ピンク・マーベルの社員としてあなたと向き合っていく…


「モデルは辞めません。
専務がどう言おうと、この企画を成功させるまでは、私はモデルを続ける…」


羽織っていた仁のコートを引き下ろすと、彼の胸に押し付けた。


「さよなら…仁。
もう二度と、あなたを求めたりしない」


そう言って仁に背を向けると、振り返ることなく歩き出す。
背中に感じる視線…
でもそれに、未練など感じなかった。


今までウジウジしてた自分が嘘のよう。
それどころか、どこか清々した気分。


着替えを済ませスタジオに戻ると、心配そうな顔をした明日香さんとソワソワしながら歩きまわってる成宮さんが居た。


「ごめんね。撮影再開しましょ!!」

「星良…専務のヤツに酷いこと言われなかったか?」


駆け寄って来た成宮さんに笑顔で頷く。


「平気だよ。私はモデルを辞めないから」



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