涙と、残り香を抱きしめて…【完】
撮影は無事終了し、数日後には編集も完了して、ピンク・マーベルのサイトにPR用の画像がアップされた。
本格販売に先駆け、先行予約を開始した商品の売れ行きは上々で、デザイン企画部の皆の顔は明るかった。
「さすが元モデルですねー
島津課長、最高に綺麗っす!!」
新井君が興奮気味にパソコンの画面をガン見してる。
降格され、今の私は課長
でもそんな事、どうでも良かった。
皆の笑顔が何より嬉しい。
「おい!!新井、朝からやらしい眼で星良を見るな!!」
新井君の頭をパコンと叩く成宮さんとの付き合いも順調で、公私共々、順風満帆。満たされていた。
で、私はというと、企画から外された身だけど、モデルという大義名分があるから、未だにこのオフィスに居座っている。
そして、そろそろ年末年始の休みが近づいてきたある日…
終業時間が迫ってくると成宮さんがすり寄ってきて、今日は縫製工場の工場長さんと飲みに行く約束があるから先に帰っててくれと言われた。
部長の仕事も兼任してるから、彼も大変だ…
「分かった。あんまり飲み過ぎないでね」と言う私に「俺は酔っても変なクセはないから安心しろ」なんて、失礼なことを言う。
「もう!!バカ」
他の社員に気付かれないよう、デスクの下で指を絡め
耳元で囁かれる甘い言葉に笑顔で応える。
「俺、酔うと激しくなるんだよなぁ~…覚悟しとけよ」
名残惜しそうに離れていく長い指をギュッと握りしめると、成宮さんがニヤリと笑う。
「まぁ、星良の激しさには敵わないけどな」
「ヤダ…」そう言って、照れ笑いした私だったけど、彼の言った事は当たってる。
成宮さんに抱かれるたび、私の中に沁み込んでいた"仁"が薄れていくような気がして…この体に刻まれた仁の形跡を消し去りたくて…
私から成宮さんを何度も求めていたんだ…