涙と、残り香を抱きしめて…【完】
成宮さんに抱かれると、どうしても仁と比べてしまう。
成宮さんのテクニックが劣るとか、そんなのじゃなくて、私の体を知り尽くした仁の愛撫には到底敵わない。
早く仁を忘れ成宮さんだけに感じる体になりたい…
あの撮影の後、仁は直ぐ東京に出張になった。
仁が帰って来る前に、身も心も成宮さんのモノになり、再び仁と向き合っても動揺することなく凛としていたい。
私は焦っていたのかもしれない…
社員達が仕事を終え帰って行き、オフィスには私一人が残された。
年末の長期休暇に入る前に、少しでも成宮さんの負担を減らしてあげたいと思った私は、彼の仕事場、オフィスの隅にあるデザイン室へと急ぐ。
この企画から外された私が手を出しちゃいけないのかもしれないけど、少しくらいならいいよね。
「あ~あ、こんなに溜めちゃって…」
まず、デスクの上に散乱してる発注書や領収書をなんとかしないとね。
事務処理をしようとパソコンの前に座ると、オフィスのドアが開く音がした。
「はぁ~疲れたぁ~」
この声は、新井君か…
そう言えば、午後から年末の挨拶まわりに行くって出掛けてたな…
特に気にする事なく仕事を始めると、またドアが開く音がした。
もう他の社員は全員帰ったはずなのに…誰?
と手を止めると、新井君の甲高い声が静まり返ったオフィスに響いた。
「おや?水沢専務じゃないですかー?
どうされたんですか?こんな時間に…」
えっ…仁…?
「おぅ、新井か。遅くまで御苦労だな。
今、東京から戻って来たとこだ。
暫く留守にしてたからな…
ちょっと覗きに社に寄てみたんだが、皆帰った後みたいだな」
「ですねー。僕も今、外まわりから帰ったとこなんですよ。
あ、コーヒーでも飲みますか?」
「あぁ、頼む」
久しぶりに聞く穏やかな仁の声…
それから2人は、私が居ることも知らず会話を弾ませてたいた。
「で、社長に聞いたが、先行予約は順調なんだってな」
「はい!!やっぱ、モデルが良かったんですよー
僕も島津課長の色っぽさに悩殺されました」