涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「そうか…」


仁の声が急に小さくなった。


「でも、驚きましたよー
専務は知ってました?
島津課長と成宮部長補佐のこと」

「んっ?あの2人が…どうした?」


あ…、新井君ったら、今、それを言う?


「付き合ってたんですよー
もうラブラブで、僕…完全に失恋です…」


仁に成宮さんとのことがバレた…


心臓がバクバクと音をたて、息が苦しくなる。


仁に知って欲しいと思ってた反面、いざその場面に直面すると心が騒いだ。


仁が今、どんな顔をしてるのかが無性に気になり、ドアの隙間からオフィスを覗き見ると…


仁は…笑ってた…


「へぇ~…あの2人がなぁ~…
それは知らなかった」


なんだろう?この胸の痛みは?
私は何を期待してたの?


仁がショックを受け、取り乱すことを望んでたの?
まだ私は…仁に未練があるってこと?


違う!!違う!!…違う


混乱してる私をよそに、2人の会話は続く。


「ここだけの話しですけどね。
実は僕、島津課長と付き合ってるのは、専務だと思ってたんですよー」

「ほーっ、そうなのか?」

「はい。島津課長と専務って、なんか特別な何かを感じてたんですけどね…
違ってたんですね」

「…まぁな。期待を裏切ってすまなかったな」


そう言って、平然と笑う仁に怒りさえ覚える。


「じゃあですよ。専務って、どんなタイプの人が好みなんですか?」

「俺の好み?そうだな…。
俺が好きなのは、ちっちゃくて可愛い子かな…」




ちっちゃくて…可愛い子?


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