涙と、残り香を抱きしめて…【完】
知らなかった…
仁の好きなタイプは、美人で大人ぽい女性じゃなく
ちっちゃくて、可愛い子だったなんて…
私とは正反対のタイプじゃない…
なら、なぜ私と8年間も付き合ってきたのよ!!
都合のいい女だったから?
いつでも好きな時に抱ける女だったから?
やり場のない想いが涙となって頬を伝う…
私の8年を返してよ…
仁を愛した私の8年を…返して…
仁と新井君がオフィスを出て行くまで、私は声を殺し泣き続けた…
泣き過ぎてボンヤリした頭のままマンションに帰る。
エレベーターを降りようとした所で人の気配を感じ、ふと顔を上げると、そこには今一番、会いたくない人物が立っていた。
「…仁」
丁度、自分の部屋から出て来た仁と眼が合い
泣き腫らした私の顔を見ると、顔を顰(しか)め何か言いたげな眼をしてる。
「…お疲れ…様です」
「星良…その顔…どうした?」
「別に…失礼します」
他人行儀な私の言葉に、再び仁の表情が険しくなり「成宮となんかあったのか?」なんて聞いてくるから、一気に怒りが込み上げてきた。
顔を上げ「成宮さんとは上手くいってます!!ご心配なく!!」と怒鳴った私の視線の先にあったのは、仁の部屋の玄関。
扉が閉まるほんの一瞬、見えたのは…
真っ赤なエナメルのパンプス
綺麗に揃えらけたソレは、大きなリボンの付いた可愛いパンプスだった。
脳裏を過ったアノ言葉…
"ちっちゃくて、可愛い子"
まさしくその言葉にピッタリの可愛いパンプス
私がどんなに頼んでも入れて貰えなかった仁の部屋
でも、あのパンプスの主は拒否されることなく彼の部屋へ招かれてる。
これが、本気と遊びの違いなんだ…
屈辱と嫉妬…
私は仁から逃げる様に自分の部屋の扉を開けた。