涙と、残り香を抱きしめて…【完】
手放した愛《水沢仁side》
《水沢 仁 side》
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「安奈、もうそろそろ出るぞ」
「はーい!!」
元気に返事をした安奈が駆け寄ってきて、俺の腕に手をまわす。
「地下鉄で通うって約束はどうなったんだ?」
「もぅ~、堅い事言わないの!!
どうせ通り道なんだから、送ってってよー」
「ったく…困ったヤツだ。
それより、そのスカート…ちょっと短くないか?」
真っ赤なパンプスを履こうとしてる安奈にそう言うと、安奈は意味深な笑みを浮かべ「あたしのこと、心配してるの?」なんて聞いてくる。
「当然だろ?せめてレギンスかタイツを穿(は)け。
パンツ丸見えだぞ」
「ヤダー!!仁君のエッチー」
そう言いながら玄関の扉を開け、飛び出して行く安奈の後を追い部屋を出る。
すると、安奈が小さく「あっ…」と呟き、俺のスーツの裾を引っ張った。
エレベーターのボタンを押してるのは、成宮。
そして、成宮に寄り添っているのは…星良…
一瞬、星良と眼が合ったが、直ぐに俺から視線を逸らすと、安奈を凝視した。
「あれぇ~お姉さん、前に会いましたよねぇ?
ほら、フィットネスクラブで!!」
「え、えぇ…」
「お姉さんも、ここに住んでたんだー
もしかして…お隣の方って、彼氏さん?」
安奈は興味深々って感じで星良の顔を覗き込む。
「そう…だけど…」
「ふーん…。彼氏さん居たんだ。
てっきり、仁君のこと好きなんだと思ってたから心配してたんだけど…
安心したわ!!」
「…まさか。私は専務のことなんて…」
「だよね!!お姉さんが仁君のこと好きでも、叶わぬ恋だもんね!!
そっちのイケメンさん選んで正解!!」
そう言ってケラケラ笑う安奈に成宮が「失礼なお嬢さんだ…」と呆れた様に冷めた視線を送る。