涙と、残り香を抱きしめて…【完】
気まずい空気が漂う中、到着したエレベーターに乗り込むと、成宮が口を開く。
「水沢専務、その元気なお嬢さんとは、どんな関係はなんですか?
まさか、彼女とか?」
まるで俺をからかってるみたいなニヤついた顔にイラッとする。
「…そうだ」
「はぁ?」
俺が否定すると思っていたんだろう。
成宮は驚愕の表情で俺と安奈を何度も見比べている。
そして、星良は…
エレベーターの隅で俯いたまま身動き一つしない。
「…驚いたなぁ…。水沢専務がまさか…そんな若い子と…」
「あら?イケメンさん、愛があれば年の差なんて関係ないのよ」
安奈がテンション高くそう言った後、俺は一呼吸置いてワザと淡々と言う。
「それと、安奈とは一緒に住むことにしたんだ。
隣同士だから、宜しく頼む」
「それって、俗に言う…同棲…ってヤツですか?」
「まぁ…そうだな」
成宮とのこの会話を、俺は星良に聞かせるつもりで話していた。
星良…
お前は俺を軽蔑してるだろうな…
でも、それでいいんだ。
俺に絶望し、俺を恨み、俺を憎め。
そして、俺の事は忘れろ…
それが、お前の幸せに繋がる。
ただ、相手が成宮ってのが気に入らない。
コイツが星良を本気で想っているのは分かっているが、俺とは考え方が全く違う。
それだけが気掛かりだった…
チーン…
1階に到着すると、俺は星良に見せ付ける様に安奈の肩を抱きエントランスを歩き出す。
死ぬほど…辛かった。
しかし、星良の為だと自分に言い聞かせ、そのままマンションを出て駐車場に向かった。
「…仁君?」
「なんだ?」
「もう、あの2人からは見えないよ」
「あ、あぁ…」
ゆっくり体を離すと、安奈がため息交じりに言う。
「ホントは仁君、あの人のこと好きなんでしょ?
どうして本当のこと言わなかったの?」
「本当のこと?」
「…あたしが…仁君の娘だって…」