涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「今から先輩が来るそうだ…」

「そうですか…分かりました」


星良をモデルにした時から、こんな事になるんじゃないか…
そう思っていた俺に焦りなどなかった。


それから待つこと15分
西野先輩が仏頂面で現れソファーにドカリと座ると、俺を睨み付け怒鳴る。


「水沢!!お前、自分のやった事がどういう事か分かってるんだろうな?」

「…はい」

「そうか。分かってて、あの島津という女をモデルにしたんだな?」

「そうです」

「お前は仕事の出来るヤツだと期待してたが…
どうやら私は、お前を買い被っていたようだな」


恰幅(かっぷく)のいい体をワナワナ震わせ、テーブルに拳を叩き付ける西野先輩。


社長が慌ててなだめようとするが、全く聞く耳を持たない。


「私が怒っているのには、もう一つ理由がある。
分かるか?水沢…」

「もう一つの理由…ですか?」


正直なところ、そのもう一つの理由とやらに検討がつかず困惑していると、突然、西野先輩が立ち上がり俺の胸ぐらを掴んだ。


「…理子に…手を出しただろ?」


一瞬、あの居酒屋でのキスが脳裏を過った。


「理子がお前のことが好きだと知って、その気も無いくせに弄んだ…
これは、理子から直接聞いたんだ。
身に覚えが無いとは言わせないぞ!!」


これには社長も驚いたのか、俺に詰め寄って来る。


「本当か?水沢…」

「バカな…」


冗談じゃない。あれは…


「理子は酷く傷付いている。
ちゃんと謝罪してもらわないとな!!」


そう言った西野先輩が大声で理子の名を呼ぶと、しおらしく俯いた理子が部屋に入って来た。


「水沢、今ここで土下座して、娘に謝れ!!」
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