涙と、残り香を抱きしめて…【完】

西野先輩と理子が部屋を出て行くと、俺はゆっくり立ち上がり、社長に頭を下げた。


「すみません…お騒がせしました」

「何を言ってる?水沢が謝る事じゃない。
しかし、理子に手を出したのはマズかったな…
本当に、そんな事したのか?」

「…いえ、あれは…」


理由を説明しようとすると、社長は首を振り、俺の肩を軽く叩き言った。


「いや、いい…
私は水沢を信じてる。
何か事情があったんだろう?
プライベートは詮索しない」

「はぁ…。それより…星良には、西野先輩の事は内密にお願いします」

「う…ん。
そうだな…ランジェリー企画の本当の内情を知ったら、星良はショックを受けるだろうからな…」

「はい…」


そう…
星良には、決して知られたくない。
これ以上、お前を傷付けたくないから…


そもそも、このランジェリー企画の最初の提案者は西野先輩だった。


俺も社長も、8年前に撤退したランジェリー部門の復活については否定的で乗り気ではなかった。


しかし、西野先輩の手前、取り合えず企画会議で議題に上げたところ
その企画に食いついてきた人物がいた。


星良だった…


以前、モデルをしていたから思い入れがあったのか…
「自分がやる!!」と、渋る俺と社長の意見を覆し企画を通してしまった。


だが、この企画の本当の目的は、モデルとして芽が出なかった理子が路線変更し、セクシーモデルとして再出発する為に仕組まれたモノ


要するに、親バカな西野先輩にピンク・マーベルが利用されたったワケだ。
初めから理子ありきで進んでいた企画


だから、理子がモデルになるのは、至極当然の事。


この事実を俺が知ったのは、社長が理子をモデルにすると社に連れて来て俺に引き会わせた時だった。


つまり、理子がモデルに決まったと星良に伝えた時だ…


企画がスタートする前に、この事を知っていたら、星良にこの仕事を任せたりはしなかったのに…
< 122 / 354 >

この作品をシェア

pagetop