涙と、残り香を抱きしめて…【完】
【すれ違った想い】

新たな恋心《島津星良side》



《島津 星良side》

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分かってた…分かってたけど…


仁の口から、直接あんな事言われると…


必死で堪えてた涙が、店を出たとたん零れ落ちる。


「酷いよ…仁」


もう仁の事は吹っ切れたと思ってたのに…
どうしてこんなに、切なく悲しいの?


ランチ帰りのサラリーマンやOLが行き交う歩道を泣きながら走り抜け、なんとか会社のビルに辿り着いたものの、溢れる涙で視界は滲み景色が歪んで見えてる。


だから、ビルの前で私を待っててくれた明日香さんに気付くことなく素通りしてしまった。


「ちょっとー!!星良ちゃん!!」

「あす…か…さん」

「あらら…なんて顔してんの?」


明日香さんは私の顔を見ただけで、全てを悟った様に首を振り
「今日は、もう帰りなさい」と言う。

「でも…」

「そんな顔でオフィスに戻ったら、理由を聞かれるわよ。
あなたは企画から外れてるんだから、無理して戻る事ないわ」

「……」


黙り込む私に、明日香さんは諭す様に「これで…良かったのよ」と呟く。


「えっ?」

「私的には、専務のおごりでゴルフに行けなくなったのは残念だけどさぁ~

専務と終わった事は、星良ちゃんにとって良かったんだよ。
なんだかんだ言ったって、所詮…不倫。

それに、星良ちゃんには、成宮さんが居るじゃない。
そうでしょ?」

「…うん」

「分かったら、帰りなさい」

「…でも、今日は仕事納めだし…」

「だからよ。仕事が終わった後の打ち上げで、専務の顔見て平気で居られる?

早退の理由は適当に考えとくから…
ほら、帰った!!帰った!!」


ニッコリ笑った明日香さんに背中を押されトボトボ歩きだす私。


地下街へと続く階段を下り、地下鉄の駅に向かっていると、あるショップの前で声を掛けられた。


こんなとこで…誰?


振り返ると、そこに居たのは…


さっき、仁が"理想の女"だと言い切った女性


…安奈さんだった。


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