涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あれぇ~偶然ですねー
でも…仕事はどうしたんですか?」
馴れ馴れしく纏わりついてくる安奈さんに、イラッとする。
「…ちょっと気分が悪くて早退したのよ」
「ふ~ん…。そう言われれば、顔色悪いし眼も腫れて赤い…」
誰のせいでこんな顔してると思ってるのよ…
彼女に向けられた感情は、間違いなく嫉妬だった。
でも、それを認めたくなかった。
「あなたは楽しそうね。
学生はお気楽で羨ましいわ」
嫌味たっぷりにそう言うと、彼女はニッコリ笑い
「あら、学生も大変なのよー
冬休みなのに、先輩の卒業制作の手伝いで大学に呼び出されるしー
まぁ、お昼までで解放されたから、ちょっと買い物してたんだけどね。
あ、そーだ!!
ねぇ、コレ、仁君に似合うと思う?」
そう言って差し出してきたのは、カラフルなドット模様のパジャマだった。
「これを…専務に?」
「うん!!可愛いでしょ?
仁君たら、地味なパジャマしか持ってなくてさぁ
私と色違いのペアにしょうと思うんだけど…
どう?」
この娘…本気で言ってんの?
こんなの仁が着るワケないじゃない。
バカじゃないの?
私は吹き出しそうになるのを必死で堪え「いいんじゃない?」と答えていた。
「だよねー!!めっちゃ可愛いよね!!
お正月は予定ないし、仁君とこのパジャマ着て、寝正月しょうと思ってるんだ。
あ、お姉さんは、あのイケメンさんとどっか行くの?」
「えっ…えぇ、旅行…の予定」
「ふーん…。いいなぁ~ラブラブだぁ~」
ホントは、そんな予定なんかないのに…
私、何、張り合ってるんだろう…
バカみたい…