涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「あ、あぁ…」


信じられないほど心臓の鼓動が速くなり
胸が締め付けられるように痛む。


まさか同じデザイン企画部だったとは…


「なんだ、昨日、会ってたのか?」


水沢専務が女にそう言うと


「ええ。トイレで私の胸に顔を埋めてきたの」
と、真面目な顔をして爆弾発言


「はぁーっ?」


仰天する水沢専務と社員達


「ち、違う!!
いや…違わないが…事故のようなモノだ。
誓ってワザとじゃない」


焦りまくって否定し
昨日の事を説明する。


「ふーん…そういう事か…」


騒いでいた女子社員が、なぜか残念そうに呟く。


「えっ?て、事は…
もしかして…あなたが、デザイナーの成宮蒼…さん?」

「あぁ…」


女の言葉を聞いて
また女子社員達が騒ぎだす。


「えぇーっ!!知らなかったんですかー?
テレビや雑誌に一杯出てるのにー」

「うん。存在は知ってたけど
顔までは…知らなかった…」

「げっ!!信じらんなーい」


何気に俺もショックだった。
これでも結構、有名人なんだが…


「バカな話しはその位にして…
取り合えず全員揃ったな…
じゃあ、自己紹介の続きを…」


水沢専務が白髪交じりの男を手招きした。


この男が部長の島津 星良(しまず せら)か?
年の割にハイカラな名前だな…


一応、今の段階では上司だからな
挨拶しとくか…


「初めまして、島津部長
デザイナーの成宮です」


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