涙と、残り香を抱きしめて…【完】

成宮さんの実家は、意外と近い場所にあった。


タクシーを降り、飲食店が立ち並ぶ一方通行の道を歩いて行く。


「千種(ちくさ)区だったの?
会社からでも15分くらいで来れるのに、どうして来てあげなかったの?」

「近いから、いつでも来れると思うと後回しになってた。
それに、お袋は夜仕事てるからな…」

「夜?」

「あぁ、小料理屋してるんだ」


彼がそう言って立ち止ったのは、古めかしいお店の前だった。


「おーい!!お袋~居るかー?」


カウンター席だけの小さなお店
その奥から元気な声が聞こえた。


「蒼?来たの?」


現れたのは、品のある背の高い綺麗な女性
この人が…成宮さんのお母さん?


「お袋、元気そうだな」

「元気に決まってるでしょ!!忙しくて病気なんてしてられないわよ。
あら?そちらの方は?」


お母さんが私を不思議そうに見つめてる。


「あ、初めまして…島津星良です」

「島津…星良さん?
もしかして、蒼の彼女?」


すると成宮さんは「そう、お袋の娘になる予定の女」なんて言い出すものだから、お母さんは大興奮!!


「えぇー!!あなた達、結婚するのぉー?」

「えっ…、あ、いや…その…」


成宮さんの爆弾発言に私は焦りまくり、小声で文句を言う。


「ちょっと、成宮さん。
お母さんに誤解されちゃったじゃない」

「誤解?何が誤解だよ?
俺は星良と結婚するつもりだけど?」

「け…結婚って…
私達、まだ付き合って日が浅いのに…」

「そんなの関係ねぇよ。
俺はお前と結婚する」


まさか、まさかのプロポース?
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