涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「それじゃあ、お祝いしないとね!!」


すっかりその気になってしまったお母さんと3人で、昼間っから酒盛りが始まってしまった。


カウンターには、お母さんが用意してくれた料理が並び、成宮さんは超ご機嫌。


「蒼の好きな物ばかり作ったんだから、沢山食べてよね」


嬉しそうなお母さんが眼を細めて成宮さんを見てる。


「好きな物って、ガキの頃から店のメニュー以外は食わせてもらった事ねぇし…
仕方なく食ってただけなんだけど…」


なんて言いながら、美味しそうに手羽先をガッついてる。


ほのぼのとしたその光景に、いつしか私まで笑顔になってた。


酒盛りは夜遅くまで続き、すっかり潰れてしまった成宮さんはカウンターに突っ伏して小さな寝息をたてている。


さすがにハメを外して飲めなかった私は割としらふで、洗い物を始めたお母さんの手伝いをしようとカウンターの中にお邪魔した。


「今日は楽しかったわ。有難うね」

「いえ、こちらこそご馳走になってしまって…
有難うございます」

「蒼ってね、昔は口数の少ない無愛想な子だったの
なのに、今日の蒼は別人みたいに一杯、話してくれた…

きっと、星良さんと出逢って変わったのね。
幸せそうな顔してるもの」

「そんな…」

「この子には、子供の頃から苦労させてきたから…」

「苦労…ですか?」


お皿を洗いながら、お母さんは深いため息を付く。


成宮さん親子は母子家庭で、母一人、子一人
彼が幼い時から夜の仕事をしてたお母さんは、なかなか彼をかまってやれなかったそうだ。


明るかったお母さんの表情が、暗く沈んでいく。


「人並みの生活させてやりたくてね。
私も必死だったらさぁ…」


それは、初めて聞く、成宮さんの過去
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