涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「星良…絶対、お前を幸せにする。
だから、結婚しよう」
結婚…
憧れ続けたその響き。
私の中でその言葉は封印され、一生、聞く事のない無縁なモノだと諦めていた。
「本気で…言ってるの?」
「当たり前だ。返事は?」
成宮さんと出逢って、一ヶ月
付き合いだして、まだ二週間弱
誰に聞いても早過ぎると言うだろう。
でも、この時の私達に、時間の長短など関係無かった。
例え、一緒に過ごした期間が短くても、濃密なこの数日で十分だったのかもしれない。
私と成宮さんは、お互いを求めてる…
それを確信できたから、私の答えは…
「…はい」
私の返事と同時にチラチラと舞い降りてきた粉雪
冷たい北風が低い音をたて、私の髪を乱していく…
でも、彼の温かい唇が私の唇に触れると、冷えた体が一瞬にして熱を持つ。
「成宮さん…お願いがあるの」
「なんだ?言ってみろ。
星良の願いは、なんでも叶えてやる…」
あの言葉を聞きたいの…
ずっと、聞きたかったあの言葉を…
大切な人から言われたいと願ってた一言。
「愛してる…って、言って」
そして、耳元で囁かれる甘い声
「星良…愛してる」
「もう一度…もう一度、聞かせて…」
すると、今度は強く抱きしめられ
低い声がゆっくり響く。
「愛してる…
この世で星良だけを、愛してる」
抱き合った私達の髪に、肩に…
粉雪が降り積もり白く染めていく…
それでも"愛してる"と言う言葉とキスは止まらない。
私は、手に入れたんだ。
平凡な女の幸せを…