涙と、残り香を抱きしめて…【完】

私のマンションの部屋に戻ると、冷えた体を温めようと2人でお風呂に入った。


「そう言えば、前に俺の部屋で星良が風呂に入った事あったよな。
あの時は強引に迫って、見事に振られた」

「だね。そんな事もあったな…」


当時は、仁以外の人は考えられなかったもの
こうやって、成宮さんと2人で湯船に浸かってる姿なんて想像も出来なかった。


て、言うか…
私、成宮さんの事、あんまり好きじゃなかったもんね。


それが今、こうやって彼に後ろから抱きしめられ、揺れる水面を眺めながら幸せを噛み締めてる。


すると、私の髪を撫でてた成宮さんが、急に何かを思い出した様に声を上げた。


「どうしたの?」

「星良には、言っていいよな…」


体を離し向き合った彼の顔は、どこか得意げで嬉しそう。


「実はな、社長に呼ばれた時、次の企画の話しを聞かされた」

「えっ…次の企画?もう決まってるの?」


全然、知らなかった…


「まだ極秘扱いなんだよ。
でもこれが成功したら、俺は一人前のデザイナーとして認められる」

「そんな大きな仕事なの?」

「あぁ、ビックプロジェクトだ。
だから、結婚はそれが終わるまで待ってくれ」

「うん。私も直ぐに結婚とか考えてないから、気にしないで」


それから体を洗ってもらいながら、彼のデザインに対する熱い思や夢を延々と聞かされた。


「成宮さん、いい顔してる。
ホントにデザインが好きなんだね。
なんだか…羨ましいな」


それは、私の偽らざる本心だった。


好きな事に打ちこめて、夢に向かって一生懸命。
心底、羨ましいと思った。


「…星良は、何かやりたい事とか無いのか?」


やりたい事…?
私がやりたい事って、なんだろう…


ピンク・マーベルに入って、仕事でも仁に認められたい…彼に似合う女になりたい。
その一心で仕事に没頭してきた。


仁と別れ、その目標が無くなった今、私の目指すモノはなんなんだろう…


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