涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「分かんない…
今までは仕事が生き甲斐だったけど
あんな事があって、企画から外されたし
降格にもなった。

もう責任有る仕事を任せてもらえないだろうし…
自分でも、何がやりたいか分かんないよ」


私の言葉に呆れた様に笑う成宮さん。


「分からねぇって…
そんな人生、つまんねぇだろ?
じゃあ、星良は何をしてる時が一番、楽しいんだ?」

「楽しい…?」


その時、ふと頭に浮かんだのは、カメラのフラッシュを浴びポージングしている自分の姿だった。


「私ね…小さい時から背が高いのがコンプレックスだったの
でも学生の頃、ランウェイを颯爽と歩く背の高いモデルを見て憧れた。
私も、こんなカッコいい女性になりたいって…

それは夢で終わっちゃったけど、今回またモデルをやって、凄く楽しかった。
必死だった若い頃とは違って、楽しめたし…」

「じゃあ、モデルやれば?」

「はぁ?」


成宮さんったら、アッサリ言ってくれる。


「そんなの無理に決まってるじゃない。
もう私、28歳だし、今更…」

「そうか?撮影の時、カメラマンも褒めてたじゃないか。
俺も会社で仕事してる星良より、モデルしてる星良の方が輝いて見えた。

やりたいなら、やればいい」

「う…ん」


そう返事はしたものの
そんなつもりはサラサラ無かった。


モデルの世界は、そんな甘いモノじゃない。


私なんて…もう…




そして、ランジェリーモデルの仕事も無事終わり
私がデザイン企画部と関わりが無くなると、部署の移動を告げられた。


「コールセンターの課長を任せる」


そう淡々と言ったのは、仁だった。


「私が、コールセンター?」

「主に、苦情処理の仕事になると思うが、頑張ってくれ」


私は戸惑いを隠せず、声を荒げ仁に詰め寄る。


「この人事は、誰が決めたんですか?」

「…俺だ。俺が決めた」


< 138 / 354 >

この作品をシェア

pagetop