涙と、残り香を抱きしめて…【完】

軽く頭を下げると、眼の前の島津部長が
焦った様に大きく首を振る。


「……?」


何を否定してる?


「ぷっ…!!」

「やだぁ~成宮さんったらぁー」


女子社員は大爆笑


すると、誰かが俺の背中を突っついた。


「あのぉ~…申し訳ないんだけど…」


あの女が潤んだ瞳で俺を見つめてる。
その顔を見ただけで、動揺してる俺。


「な、何?」

「島津は…私」

「へっ?」

「私、島津星良…ここの部長です。
その人は、主任の山本さん」


一瞬、頭の中が真っ白になった…


「嘘…だろ?」

「ごめんね」

「いや…別に謝らなくても…」


冷静に返したが、心の中では大絶叫していた。


マジかよ?
この女が…俺の上司?


確かに、この業界は多くの女が活躍してる。
デザイナーも女が多い。


だが、よりにもよって
どうしてこの女なんだよ。


「まぁ、仲良く頼むよ」


水沢専務が俺の背中をポン!と叩き
島津星良に片手を上げオフィスを出て行く。


「じゃあ、仕事しよっか!!」


明るく張りのある声がオフィスに響くと
今までダラけていた社員達が背筋を伸ばし
席に着く。


「成宮部長補佐は、私と来てくれる?」


そう言った島津星良の表情は
正しく仕事モード
真剣そのものだった…







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