涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「専務も、何か責任を取らされたって事じゃない?」
「まさか…私のせい?」
「それは分かんないけど…
あの理子の父親が頻繁に社長に会いに来てるらしいし…
なんかあったのかもね」
理子の父親は、ピンク・マーベルの大株主だ。
理子をモデルから外した事に関係あるんだろうか?
「分かったぞ!!水沢専務のヤツ、自分が取締役から外されたのが気に食わなくて、星良に嫌がらせしてんじゃねぇか?」
興奮気味にそう言う成宮さんの言葉を聞き、明日香さんも語気を荒げる。
「このままじゃ納得できないわ!!私、専務と話ししてくる!!」
立ち上がった明日香さんは、止める間もなくカフェを飛び出して行った。
でもその日は、それっきり明日香さんとは会えずじまい。
携帯に掛けても留守電になってて、話しは聞けなかった。
そして、その夜
半分諦め掛けていた私とは対照的に、成宮さんは終始ご機嫌斜めで、私がコールセンターに移動させられるのがどうしても納得いかない様子だった。
私を抱き終わった後も
「もうピンク・マーベルに執着するな」とか「星良の事、ちゃんと評価してくれるとこは他にもある」なんて言う始末。
なんとか彼をなだめて眠りについた。
けど、夜中に眼が覚めると、隣で眠っていたはずの成宮さんの姿がない。
不思議に思っている私の耳に、微かに彼の声が聞こえてきた。
どうやら、リビングで誰かと電話で話しているよう。
「…ピンク・マーベル…」という彼の口から出たワードに反応した私は、寝室のドアを少し開け耳を澄ます。
「そうです。今度の企画はコラボ…
社長は、社運を掛けたプロジェクトだと言ってました」
何?成宮さん、誰と話してるの?
「本契約はまだです。
手を打つのなら、今しかありません」
どういう事?どうして会社の情報を…
「それと、常務に一つお願いがあります。
コレが上手くいって、自分が戻る時、モデルを一人連れて行きたいんですよ。
専属モデルとして雇ってもらえませんか?」
「……!!」