涙と、残り香を抱きしめて…【完】

怒りの決断《成宮蒼side》



《成宮 蒼side》

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俺はイラついていた。


なぜ星良は、そんなにピンク・マーベルに執着するんだ?
確かに、8年間勤め部長にまでなった会社だから愛着はあるだろうが、あんな仕打ちをされたんだぞ。


愛想を尽かして当然だろ?


星良が許しても、俺は絶対、許せねぇ…


ピンク・マーベルに打撃を与えててやる。


そう…手は有る…


次の企画は、俺が駆け出しのデザイナーだった頃の師匠"マダム凛子"との共同プロジェクト。


現在、彼女の活躍の場はパリ
日本でのファッションショーは3年ぶりだ。


今回、日本でショーをするにあたり、凛子先生は自分を育ててくれた日本のアパレル業界に恩返しをしたいと、日本の企業とのコラボを申し出た。


選ばれた企業の専属デザイナーも、スタッフの一人として参加し、凛子先生と共にデザインを担当出来る。


そして、今まで直営店でしか販売してこなかった彼女のブランドの販売権を、その企業にも与えるという破格の条件が付けられていた。


でもそれは、限られた数社の企業にしか知らされず、その企業の間で壮絶な駆け引きと争奪戦が繰り広げられていた。
そして、その数社の企業の中に、グランも含まれていたんだ。


しかし、どうもピンク・マーベルがその権利を得たらしい。


だが、まだ契約は交わされておらず、他社にもチャンスは残されている。


ピンク・マーベルの社長は、秘密裏にスポンサー料という名目で、かなりの額を支払う約束をしたと言っていた。


もちろんこの事は、凛子先生の事務所との交渉で、凛子先生は知らされてないらしい…


だとしたら、それ以上の金額を提示すれば、グランが巻き返せる。


そうなれば、俺はグランに戻り、グランの専属デザイナーとして凛子先生と仕事が出来るという訳だ。


そして、星良も一緒に…



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