涙と、残り香を抱きしめて…【完】
問題は、ピンク・マーベルが提示した金額だ。
それを突きとめなくては…
次の日から、俺は本気で動き出した。
星良は未だに「そんな事はやめて」と頼んでくる。
だが俺はやめる気などサラサラ無い。
ここまで来たら、引き下がれるか!!
そして、いよいよコラボプロジェクトの企画会議が役員のみの出席で始まった。
「皆さんもご存じの通り、今回のマダム凛子との共同企画の契約は、まだ交わされてはいない。
しかし、間違いなく我が社が選ばれるはずだ。
そこで、大まかな内容を伝えておこうと思う。
分かっているとは思うが、まだこの企画は極秘扱いでお願いしたい」
社長が神妙な顔でそう言うと、役員達も緊張した面持ちで頷いた。
「ショーの予定は、6月末。これには理由がある。
テーマはズバリ、June Bride"6月の花嫁"だ。
マダム凛子がいよいよ、今まで手掛ける事がなかったブライダル業界に参入する。
彼女の意向で、対象となるターゲットは20代後半から30代の女性。
晩婚化傾向にある昨今、厳しい世界だという事は百も承知だ。だが、見る目の肥えた大人の女性だからこそ、いいモノを見抜く力はある。
マダム凛子が目指しているのは、シックで落ち着いた中にも大胆で華やかなドレス。かならずユーザーの期待に添える作品になるはずだ。
マダム凛子もヤル気満々で、今までマスコミにはほとんど露出してこなかったが、積極的にマスコミにもアピールすると言っている。
注目を浴びる事、間違いなし…だな。
そして、我が社からもデザイナーを派遣し、ピンク・マーベルの名を前面に出してもらう予定だ。
そうなれば宣伝効果は絶大。
なので、なんとしてもこの企画を成功させなければならない」
すると、一人の役員が口を開いた。
「社長、内容は理解しました。
しかし、本当に我が社が契約を取れるのですか?」
「それは心配ない。手は打ってある。
その為に、専務を東京に出張させたんだからな。
なぁ、専務」
「はい。その件に関しては、問題ないかと…」
自信に満ちた表情で立ち上がった水沢専務に、役員は更に質問を投げかける。
「一体、どんな手を打ったんですか?」