涙と、残り香を抱きしめて…【完】
連れて行かれたのは、同じ階の会議室
「どうぞ、座って」
さり気なく椅子を引くしぐさ
それさえも妙に絵になり
俺の眼は釘付け
「専務から話しは聞いてると思いますけど
私達は大人の女性向けのランジェリーを手掛けています。
成宮部長補佐には、そのデザインをお願いしたいの
まだチームが出来て間もないから
色々、問題があるかもだけど
宜しくお願いします」
「あ、あぁ…
こちらこそ、宜しく」
「それと…」
言葉を途中で止めた島津星良が
スーツのポケットからタバコを取り出し
俺に目配せする。
「構わない…吸って」
俺の言葉に嬉しそうに頷くと
慣れた手付きで火を点け
グロスで光る唇から、細い煙を流し出す。
「私が上司で不満なら、今、言って欲しい」
囁く様な小さな声だった。
「不満だと言ったら?」
俺は彼女を試す様に訊ねると
島津星良は小悪魔みたいにニッコリ笑い
「デザイナーを変えるわ」
堂々と、そう言い放った。
「俺を変える?
この事業の為に
ヘッドハンティングで引き抜いた俺を変えるのか?」
「そうよ。
私には、そんな事、関係ないもの
私が大切にしたいのは、お互いの信頼関係
チームワークよ。
いかに皆が気持ち良く仕事が出来るか…
それだけよ」
大した女だ…
ゾクゾクする。
可愛い顔して、物怖じしないこのもの言い
益々、気に入った。
「心配しなくていい。
俺は仕事が出来れば、それが女だろうと認める主義だ」
「そう。
それを聞いて安心したわ
じゃあ、改めて宜しく」
差し出された手を
俺は躊躇する事なく握った。
細く長い指が俺の手を包む
それだけで、やたら興奮した。
この時、俺は決めたんだ…
この女を、必ず落としてみせる…と