涙と、残り香を抱きしめて…【完】

そして、1週間ほど経った日の事だった。
グランの常務から連絡が入り、昨日、凛子先生の事務所でプレゼンが行なわれ、
ピンク・マーベルを上回る6千万の資金提供を申し出たと…


いよいよだ。
これで契約は、間違いなくグランに決定する。


誰も居ないデザイン室で、俺は今にも叫び出しそうな衝動に駆られ、高ぶる気持ちを抑えるのに必死だった。


常務の話しでは、契約の最終決定は明日
明日には、全てが終わる。


その時は退職願を水沢専務に叩きつけてやる。
ふふふ…待ってろよ。水沢専務。


その時だった。
内線が鳴る。


相手は社長秘書の田村。
至急、社長室に来るように言われた。


契約が決まるのは明日のはずだが…
もしかして、もう凛子先生から連絡があったのか?


逸(はや)る気持ちを抑え社長室の扉を開けると、そこに居たのは、社長と田村…そして、水沢専務だった。


「失礼します」

「うん。まぁ、そこに座ってくれ…」


社長に促されソファーに座る。


「実はね、いい話しと悪い話しがある。
まず、いい話しからしようか…」

「はぁ…」


俺の向かいに座った社長が、嬉しそうにニッコリ笑い得意げに話し出す。


「我が社とマダム凛子との契約が成立した。
本日、無事に契約書を交わす事が出来たよ」

「えっ…!!」


なんだと?どういう事だ…
契約するのはグランのはず…
どうしてピンク・マーベルが?


呆然としている俺に、社長は更に言葉を続ける。


「そして、もう一つ…今度は悪い話しだ。
この会社の中に、裏切り者が居る事が分かった…」

「……!!」

「その裏切り者は、成宮部長…君だね?」




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