涙と、残り香を抱きしめて…【完】
ここまで完ぺきに言い当てられたら、もう誤魔化す事など出来ない…
「…一つだけ教えて下さい。
グランが選ばれなかったのは、やはりピンク・マーベルより金額が低かったからなんですか?
ピンク・マーベルは、一体、いくら渡す予定だったんですか?」
すると社長が「それも全て嘘だよ」と笑いながら答えた。
「…嘘?」
「そうだ。我が社は一円たりとも支払う予定はないよ。
そんな卑怯な手を使わなくても、ピンク・マーベルが選ばれると確信してたからね」
社長の言葉にガックリ肩を落とし項垂れる事しか出来ない。
生きがって、調子に乗ってた自分が情けない…
そして何より、尊敬してた凛子先生を落胆させた事が辛かった。
「成宮部長、処分が決まるまで自宅謹慎してもらう。
今日はもう帰れ」
水沢専務がそう言うと、秘書の田村が社長室の扉を開けた。
俺に出て行けという事か…
フラフラと立ち上がり、脱力した体を引きずる様に歩き出す。
どんな処分が下るか…
そんな事、考えるまでもない。
会社の情報をライバル会社に漏らした者が許される訳がない。
俺は、間違いなく解雇される…
そう思った瞬間、星良の悲しむ顔が浮かんだ。
混乱する頭は冷静さを失い
何をどうすればいいのか分からないまま、気付けばマンションの自分の部屋の前に立っていた。
とにかく部屋へ入ろうと扉の鍵を開けた時、内ポケットのスマホが鳴った。
表示された相手の名を確認した俺は、思わず息を呑み
震え出した手からスマホが滑り落ちそうになる。
グランの常務からだ。
一瞬、様々な思いが頭の中を駆け巡った。
もう俺が頼れるのは、常務しか居ない。
そもそもスパイなんて俺の本意じゃなかった。
こんな事になったのは、全て常務のせいだろ?
そうだ…常務に頼んでグランに戻してもらおう…