涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「常務、マズい事になりました…」
『マダム凛子の件か?』
「はい。例の裏金は全て嘘だったんです。
俺達は騙されてたんですよ!!」
『…俺達?騙されたのは、成宮…お前だろ?』
「えっ?」
『お前が騙され、嘘の情報を私に伝えた。
そうだよな?』
「それは…」
『さっき、マダム凛子の事務所から連絡があった。
契約はピンク・マーベルに決定したそうだ。
そして言われたよ。
裏金で契約を取ろうとする様な勘違いしてる会社とは、今後一切、関わりたくないとな。
成宮…お前、よくも私に恥を掻かせてくれたな…』
「ちょっと待って下さい!!
それじゃあまるで、俺が悪いみたいな…」
『当然だろ?全て成宮の責任だ!!
お前との付き合いはこれっきりだ。もう連絡してくるなよ』
「なっ、常務!!
グランに戻るって話しは…」
そう叫んだ時には、既に電話は切れていた…
「…嘘だろ…。なんでこうなるんだ…」
最後の頼みだった常務に裏切られた瞬間、俺のデザイナーとしての未来も消え去ったんだ…
今まで必死で頑張ってきた事が、全て水の泡となって消えていく。
夢も希望も…何もかも…奪われてしまった…
もう俺は、死んだも同然。
絶望のどん底で、俺は成す術なく玄関の床に這いつくばり…泣いた。
何年ぶりに流す涙だったろう。
自分が男だというプライドさえ、もう欠片も残ってはいなかった。
ただ、この場から…いや、全ての事から逃げ出したいという思いで立ち上がり、おぼつかない足取りでマンションを出た。
行くあても無いままに…