涙と、残り香を抱きしめて…【完】
『なるほどな…逃げ出したって訳か…』
「逃げ出したって…どういう事?」
『島津は知ってたのか?
アイツがピンク・マーベルを裏切ってた事を』
「……!!」
まさか…成宮さんがしてた事が…バレた?
余りのショックに、仁の問い掛けに答える事も忘れ黙り込んでしまった。
『知ってたんだな?…なぜ止めなかった?
まさか、お前もグルだったのか?』
「ち…違う。でも、彼は私の為に…
私がコールセンターに移動させられたのを怒って…
だから、彼を責めないで…お願い」
声が震え上手く喋れない。
それでも必死になって成宮さんは悪くないと仁に訴えた。
それを黙って聞いていた仁。
でも、興奮して泣きながら話す私の言葉は支離滅裂で、おそらく仁は何を言ってるか分からなかったろう。
そして嗚咽が酷くなった私は、とうとう喋る事が出来なくなってしまた。
その時、仁の声が耳に響いた。
『島津、もういい…分かったから、泣くな…』
それは、付き合ってた時でさえ聞いた事のないとても優しい声だった。
「仁…」
『今、どこに居る?成宮の部屋か?』
「う…ん」
『そうか…今日は遅くなるが、帰ったらそこに行く。待っててくれ』
「えっ…」
『どこにも行くな。いいな!!』
私の返事を聞く事なく携帯は切れた。
仁…ホントに、来てくれるの?
まだ頭の中がゴチャゴチャで、上手く整理出来ない。
それでも仁の言葉を信じ、玄関に向かい床に腰を下ろした。
ここに居れば、誰が来ても直ぐ分る。
床から伝わってくる冷たい感覚に耐えながら、私は膝を抱えひたすら成宮さんと仁を待ち続けたんだ…
そして、日付が変わった頃…
エレベーターが到着した音が聞こえた。
成宮さん?それとも…仁?