涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「成宮は、グランに勤める前はマダム凛子の元でアシスタントデザイナーをしてたんだ。
その頃から、マダム凛子は成宮の才能を高く評価していた。
だから今回の企画の話しが出た時、ピンク・マーベルから出すデザイナーは、成宮にしてくれと言われていたんだよ。
なのに、あのバカ…
自分で自分の首を絞める様なマネしやがって…
でもな、マダム凛子はもう一度、アイツにチャンスを与えたいと言い出して、渋る社長を説得しちまったんだ。
まぁ、社長もマダム凛子の機嫌を損ねて契約解除なんて言われたら元も子もないからな…
だから成宮は、ピンク・マーベルの社員として、企画に参加してもらう。
解雇にはならない」
「ホント…なの?」
「あぁ、本当だ」
「…良かった…」
全身の力が抜け、崩れる様にその場に座り込んでしまった。
早くこの事を、成宮さんに教えてあげたい…
「でも…成宮さん、一体、どこへ…」
「心配するな。ガキじゃないんだ。
頭を冷やしたら戻って来るだろ。
それより…島津の方は…どうなんだ?」
「どうって?」
「…コールセンターの仕事は…慣れたか?」
「あ、うん…。少しは…ね」
「少し…か…」
暗い顔をした仁がため息を付く。
「…悪かった」
「えっ?」
「島津の意見も聞かず、勝手に移動させて悪かった」
仁…?
「いいの…気にしないで。
仁の気持ちを考えたら、仕方ないよね。
せっかく可愛い彼女が出来たのに、私が近くに居たら気分悪いだろうし…
でも今日は、有難う。
凄く心細かったから…仁が来てくれて助かった」
そう…
仁は、来たくてここに来たワケじゃない。
「もう一人で大丈夫だから…」
私が頼っちゃいけない人…だから…
「遅くまで付き合わせちゃって、ごめんなさい。
安奈さんが待ってるんでしょ?
早く帰ってあげて…」
小さく頷き部屋を出て行く仁の後姿を眼で追いながら、私はグッと唇を噛み締める。
そして、心の中で何度も呟いていた。
私は平気…寂しくなんかない。
寂しくなんか…ない。