涙と、残り香を抱きしめて…【完】

それから2日が経った土曜日


成宮さんは、まだ帰って来ない…


昨夜は色んな事考えていたから眠れなくて、眼が覚めたのはお昼過ぎだった。


もちろん、成宮さんが心配だったから…
でも、成宮さんの事を考えていたはずが、気付けばいつの間にか私の頭の中を占領してたのは…


仁…


久しぶりに仁と話し、仁に触れ
私の心は確実に揺れ動いていた。


自分でもこの気持ちが理解出来ない。
彼の事はちゃんと決着つけたはずなのに、どうして仁の事ばかり考えちゃうんだろう…


もしかして…私はまだ仁の事を…


うぅん。違う!!そんなはずない!!
私は成宮さんを愛している。
プロポーズされた時は嬉しかったし、今でも成宮さんと結婚するつもりでいる。


そうだよ。私の一番は成宮さん。
彼を探さなきゃ…


慌てて飛び起きると、急いで用意を済ませマンションを出た。
私が向かったのは、成宮さんの実家。


でも、いきなり彼が来てないかなんて訪ねて成宮さんが行ってなかったら、お母さんも変に思うだろう。


そこで、行く途中に菓子折りを買い
近くに来たから挨拶にに寄ったと偽ってお店に伺った。


お店で仕込みをしていたお母さんは驚いた様子だったが、私が来た事をとても喜んでくれた。


「まぁ!!わざわざ寄ってくれたの?」

「はい…近くに来たので…お正月のお礼をと思いまして…」


そう言いながら、お店の奥を覗き見る。


「そんなの気にしないでいいのにー!!
でも、一人で来てくれたなんて嬉しいわ!!」

「あの…成宮さんは…あれから顔出しました?」

「蒼?いいえ。
あの子とはお正月に会ったきりよ」

「そう…ですか」


やっぱり、ここには来てないんだ…


そうだよね。
お母さんにあんな事言えないだろうし、一番、心配掛けたくない人だもんね。


仕方ない…帰ろう。


そう思いお礼を言って立ち上がると、お母さんが私を引き止めた。


「ねぇ、星良さん…あなたに聞きたい事があるんだけど…」



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