涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「はい?」


お母さんは、少し遠慮気味に話し出した。


「星良さんは、本当に蒼と結婚したいと思ってる?」

「えっ?」


予想もしなかったお母さんの言葉


「蒼が、あなたに惚れてるってのは間違いないと思うのよね。
でも…星良さんは、どうなのかなぁ…って思って…」

「どうして…ですか?
私は彼の事大好きですし、結婚するつもりでいます」


明らかに動揺してる私。


「それならいいんだけど…
お正月に来てくれた時、星良さんは楽しそうにしてくれてたけど、なんだろう…
無理してるみたいに見えたから…

こんな仕事してるとね、色んな人の人生と関わっちゃうのよね。
恋愛相談なんかもされる事あって、自然と人間観察するクセがついちゃって…

でも、星良さんがそう言ってくれて安心したわ。
どうか蒼の事、宜しくお願いします」


そう言って、深々と私に頭を下げる。


「やめて下さい。お母さん。
私こそ、宜しくお願いします」


私は慌ててお母さんの元に駆け寄ると、彼女に負けないくらい頭を下げた。


「でも…これだけは言わせてちょうだい。
もし星良さんの気持ちが蒼から離れた時は、あの子にハッキリそう言ってあげて欲しい。

でないと、あの子も、星良さんも不幸になる。
私は母親として、蒼の幸せだけが願いなの。
もう、あの子に寂しい思いはさせたくないから…」


それは私にとって、胸をえぐられる様なキツい言葉だった。


どうして?
私は成宮さんを本気で愛してるのに…
なぜお母さんは、そんな事言うの?


確かに、仁への想いが完全に消えたとは言えないかもしれない。
でも、成宮さんの事は真剣に考えてる。


私じゃダメって事なんだろうか?


なんだか、やるせない…


一気に気分が落ちてしまった。









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