涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「アンタが居なくなれば良かったんだ!!」
安奈さんがそう叫びながら腕を大きく振り上げた時、後ろの部屋の扉が開き仁が駆け寄って来た。
「よせ!!安奈!!」
「いやぁー!!放してぇー…」
興奮して暴れる安奈さんの体を後ろから羽交い絞めにしながら仁が叫ぶ。
「島津、行け!!」
「…じ…ん」
「早く部屋に入れ!!」
私は仁に言われるまま鍵を開け、慌てて部屋に飛び込みロックする。
暫くの間、扉の向こうでは安奈さんの泣き叫ぶ声と仁の怒鳴り声が響いていた。
なんなのよ…ワケ分かんない…
どうしてあの娘に、ここまで言われなきゃいけないの?
怒りが込み上げてくる…
この悔しさをどこにぶつけていいか分からず、玄関にあった靴を手当たりしだいに投げ捨てた。
仁を奪っておいて、今度は成宮さんまで…
許せない…
あの娘だけは…絶対、許せない…
それから何もする気になれず、ひたすらワインを飲み続けた。
気付けば、空になったワインボトルが2本。私の足元に転がっていた。
アルコールの力を借り、少し気が紛れてきた深夜1時
玄関のチャイムが鳴る。
もしかして…成宮さんが帰って来た?
酔って意識が朦朧としていたが、必死で立ち上がり、覚束(おぼつか)ない足取りで玄関に向い笑顔で扉を開けた。
「お帰りなさい…成宮…さ…」
「俺だ。成宮じゃなくて悪いな…」
「仁…」
一瞬にして、私の笑顔は困惑の表情に変わっていく…
「少し話しがあるんだ。入ってもいいか?」
「別にいいけど、可愛い彼女が怒鳴り込んで来るんじゃないの?
もう、あんなのゴメンだから…」
苦笑いを浮かべた仁が後ろ手で扉を閉めながら言う。
「大丈夫だ。安奈はもう寝たよ」