涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「もう挨拶はいいでしょ?
島津さん、早く歩いてみて」
痺れを切らした様に急かすマダム凛子。
でも、どうして私がそんな事しなきゃいけないの?
「あの…なんの為にウォーキングを?」
「もう!!面倒くさい子ね。
言われた事をすればいいのよ!!
いい?ランウェイを歩いてるイメージでウォーキングするの。
ほら、始めて!!」
ランウェイを?なんなのそれ?
余計に訳が分からなくなってきた。
でも、とても断れる雰囲気じゃない。
私は渋々立ち上がり、理由も聞かされないまま歩き出す。
モデルをやってた時は撮影専門で、ランウェイを歩いた事などない。
要するに、素人同然。
10歩ほど歩いたところで、マダム凛子の声が響いた。
「もういいわ。分かったから」
分かったって…何が分かったの?
戸惑っている私の横で、マダム凛子と工藤さんが小声で何か話してる。
その様子を不安げに見つめていると、マダム凛子が顔を上げた。
「島津さん、あなたの身長は?」
「あ…、身長は…173cmです…」
「173?…低いわねぇ」
低い?初めて言われた…
「私は175cm以下のモデルは断る事にしてるの」
「はあ…」
「まぁでも、日本で行うショーだしね。大目に見といてあげる」
全く理解不能なマダム凛子の言葉。
「ウォーキングは最悪けど、これからレッスンすればなんとかなるでしょう。
工藤さんも素質はあると言ってくれたし、一応、合格ね」
レッスン?
それって、まさか…
「あなたには、今度の企画のモデルとしてショーに出てもらうから」
「モ、モデル?…えっ?えええーっ?」