涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「そ、そんな…無理です」


あまりの衝撃に腰が抜けて倒れそうになり、思わずソファーの背もたれにしがみ付く。


私がショーに?…それも、世界で活躍してるマダム凛子のショーに出るなんて、そんなのありえない。


「あら?自信が無いの?」

「ありません!!全く、ありません!!」


当然だ。そんなのあるワケない。


「呆れた…。どうしてもって推薦されたから、もっとヤル気がある娘だと思っていたのに…期待ハズレね」

「…推薦?された?私が?」

「えぇ、モデルになるのが夢で、とても魅力のある娘が居る。
是非、会ってやってくれって頼まれたのよ」


モデルになるのが夢…

その言葉を聞いてハッとした。


ピンク・マーベルに入社して、私はモデルになる夢を諦めた。
だからその思いは封印して、決して誰にも言わなかった。


そして、仕事に没頭する日々が続き、何時しか自分でもそんな夢を抱いていた事すら忘れていたけど…


その夢を思い出させてくれた人が居たんだ…


唯一、"夢を諦めるな"と言ってくれた人。


成宮蒼…


「あの、私を推薦してくれた人って、もしかして…成宮さんでは?」


マダム凛子が意味深な笑みを浮かべた。


そうだ。きっと、その人は成宮さんだ。
でも、行方が分からない成宮さんが…推薦なんて…


「あっ!!」


まさか…


「成宮さんの事、何か分かったんですか?」


更に口角を上げたマダム凛子がコクリと頷く。


「あなた、成宮の彼女なんですってね。
彼女なら教えても構わないわよね…
確かに、成宮から連絡があったわ」

「本当ですか?
成宮さん無事だったんですね…
あぁ…良かった」


全身の力が抜けていく…


心の底からホッとして、大きく息を吐き出した。




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