涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「すみません。もう一つだけ教えて下さい。
成宮さんから連絡が入ったのは、いつだったんですか?」
「…金曜日…そう。金曜日の深夜だったわ」
金曜日の深夜…
「確か…凛子先生は、土曜日に水沢専務に電話してますよね?
その時、成宮さんが見つかった事を専務に話しましたか?」
「…えぇ。確かに水沢専務に電話して成宮が見つかったって言ったわ。
それが何?」
やっぱり…
仁は知ってたんだ…
なのに、私には成宮さんが見つかった事を隠してた。
隠して、あんな事を…酷い…
「いえ、少し気になった事があったもので…すみません」
「とにかく、島津さんはこれからウォーキングの猛特訓をしてもらうから、詳しい事は、また追って連絡するわ」
「は、はい」
自分の事で一杯一杯だったはずの成宮さんが、私の為に頼んでくれたんだ。
その気持ちを無にする訳にはいかない。
「じゃあ、社長、私は打ち合わせがあるから失礼します」
「あぁ、御苦労さん。また後で…」
マダム凛子が工藤さんと共に社長室を出て行くと、社長がニヤニヤしながら私の顔を覗き込み言う。
「星良、良かったな。
これで本格的にモデル復帰だ」
「はい。自信は無いですけど…頑張ります」
「でもなぁ~思い出すよな…
8年前に星良が下着モデルのオーディションを受けに来た時の事」
「やめて下さい…そんな昔の話しは…」
「いやぁ~懐かしいよ。
オドオドして、可愛いお嬢ちゃんって感じだったものなぁ。
泣いた顔が水沢に気に入られて専属モデルになって…
私はあのまま星良をモデルとして起用して、ランジェリー部門を盛り上げていって欲しかったんだが、水沢が急にランジェリー部門を撤退させるなんて言うから、焦ったよ」
えっ…?
どういう事?
ランジェリー部門の撤退を決めたのは、仁?
仁が決めた事だったの?