涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「なんせ、当時のピンク・マーベルの利益の8割はランジェリーだったからな。
会社を潰す気かって、水沢と大喧嘩になって…

それでもアイツは、頑なに譲らなかった。

で、仕方なく星良とのモデル契約も解除したんだが…
その後の星良の活躍は眼を見張るものがあった。

水沢は見る眼があったって事だ。
だが、私はやっぱり、星良はモデルの方が合ってると思うよ」


それは、初めて聞く事実…


私の夢を奪ったのは、他でもない。


仁だったんだ…


仁への不信感がどんどん増していく。


でも、今は成宮さんの事を一番に考えたくて、仁への様々な想いは胸の奥にしまい込む。


社長室を出た私はコールセンターに行き、強引に休みを取ると、その足で名駅の成宮さんが居るというビジネスホテルへ向かった。


駅裏にあるそのホテルに到着すると、こじんまりとしたロビーを突っ切りエレベーターに飛び乗る。


510号室…


マダム凛子から渡されたメモを確認しながらドアをノックすると、数秒後、カチャ…という音がしてドアが少し開いた。


私は堪らずそのドアのノブを力一杯引っ張り、眼の前に現れた成宮さんに夢中で抱き付いていた。


「星良…どうして…」


驚き戸惑っている成宮さんを、私は更に力を込めて抱きしめる。


「マダム凛子に聞いたの…
会いたかったよ。成宮さん」


彼に会えた事が嬉しくて興奮してる私とは対照的に、成宮さんの声は沈んでいた。


「連絡しないで…すまなかった…」


とても小さな声…


「いいの。もう…いいから…
それより、成宮さんに報告があるの。
私、マダム凛子のショーにモデルとして出る事になったのよ」

「ほんとか?」

「そうよ。また成宮さんと一緒に仕事が出来る」


満面の笑みで成宮さんを見つめる私を、彼は優しい笑顔で抱きしめてくれた。


これでまた、以前の様な2人に戻れる…


そう思っていたのに…



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