涙と、残り香を抱きしめて…【完】

関係




思ったより狭いシングルルーム。


成宮さんは気まずそうにベットに腰を下ろし俯いている。


「マダム凛子に聞いたでしょ?
成宮さんはこれからも変わらずピンク・マーベルの社員としてデザインの仕事が出来るの。

社長も了承してるから、何も心配いらないわ」

「そうだな…」


私がどんなに明るく話し掛けても、成宮さんは顔を上げる事は無かった。


全て丸く収まったんだから、もっと笑顔を見せて欲しいのに…


どうしたものかとため息を付きベットの横の小さな椅子に座ると、何気なく視界に入ったテーブル。


その上には、飲み終えた缶コーヒーが2本。
ブラックとミルクコーヒー…


不思議に思った。


成宮さんは、いつもコーヒーはブラックだ。
ミルク入りなんて飲まない。


「…ねぇ、誰か…ここに来た?」


私の問い掛けに「いや…誰も来てない」と慌てて顔を上げた成宮さん。


その態度と声のトーンに、小さな不信感が芽生えた。


成宮さんは、嘘をついてる。


そう思ったけど、今それを問えば、益々、彼を追い詰めてしまう様な気がして…
私は言葉を呑み込んだ。


彼に限って浮気なんてありえない。
そうよ。たまたまブラックコーヒーが売り切れだったのかもしれないし、こんな精神状態だもの…好みのモノと買い間違えて仕方なく飲んだのかもしれない。


私は立ち上がり、成宮さんの横に座った。


そして、ゆっくり彼の唇に自分の唇を重ねる。


「星良…」

「大好きだよ…だから、元気出して?」

「俺だって…」


急に彼の眼つきが変わったと思ったら、強く抱きしめられ私の体がベットに深く沈み込む。


激しく貪る様なキスの嵐…
勢い余って歯がぶつかり小さな音をたてた。


「あ…ごめん」

「いいの…もっと、激しくして…」


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