涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「なっ…何言って…うぅっ…」
俺は酔っぱらって、夢でも見てるんじゃないか…
…そんな気分だった。
だが、唇に感じているこの感覚は夢などではなく
現実で…
柔らかく濡れた彼女の唇は
ゆっくり、でも確実に俺の唇に押し当てられ
甘い吐息と妖艶な眼差しに
俺は確実にほんろうされている。
会社のヤツらが見てる前で
こんな事していいのか?
微かに残っていた理性が
俺の揺れる気持ちに歯止めを掛けた。
「島津…部長…よしてくれ」
「ダ…メぇ」
離れようとした俺の頬を両手でガッチリ掴むと
有無を言わさず
再び唇を重ねてくる。
壁に押し付けられていた体が
ズルズルと滑り
俺が畳の上に仰向けになっても、お構いなし。
誘う様な視線が俺を捉えて離さない…
もう…限界だ。
どうなっても知らねぇぞ…
とうとう俺は、彼女の華奢な体を抱きしめ
そのキスに応える。
時折漏れる掠れた声が
俺の思考を完全に麻痺させ
理性とやらは、既に欠片も残ってはいない。
こんなにそそられるキス…初めてだ。
彼女を落とすと決めた俺だったが
俺が落とされた…
って、ことか?
そう思った時だった…
「はい、そこまで!!」
その言葉と同時に
俺に覆い被さっていた彼女の体がフワリと浮いた。
「あぁ~ん。ヤだぁー…」
イヤイヤと首を振る彼女の頭を、誰かがパチンと叩く。
我に返った俺が視線を上げると
そこに立っていたのは
……水沢専務だった。