涙と、残り香を抱きしめて…【完】

つまり…2人の関係は…


「今更、何言ってる?凛子らしくないぞ。
言っとくが、振られたのは俺の方なんだからな」

「あら、そうだったかしら?」

「ったく…。
…もしかして、あの男と上手くいってないのか?」

「いいえ。上手くいってるわ。ご心配無く。
それより、仁の方はどうなのよ?

例の彼女…
結婚したいとか思わないの?って、言っても、それは無理か…結婚してるんだから」


安奈さんの事を言ってるんだ。
マダム凛子は、そんなプライベートな事まで知ってるんだ。


「その事だが…」

「何?」

「離婚を考えてる」


えっ…。離婚?


私と付き合ってた時は、決して口にしなかった離婚という二文字。
8年間、待ち続けた言葉だったのに…
付き合ってまだ数ヶ月の安奈さんの為なら、離婚出来るっていうの?


「本気?」

「あぁ」

「へぇ~…意外な展開ね。
でも、そんなに簡単に離婚出来るかしら?」

「簡単にとは思ってないさ…でも、もう決めた事だ」

「そう…。よっぽど好きなのね。彼女の事。
で、その事、あの娘に話したの?」

「いや…それはまだ…」

「まだか…あの娘を説得するのは至難の業よ。」

「そうだな…」


仁の低い声が聞こえたのと同時に、BGMがスローバラードからテンポのある明るい音楽に変わった。


2人の会話は、もう聞こえない。


混乱する頭で必死に今聞いた事を整理する。


仁とマダム凛子は、同じ大学だったんだ…
その頃、2人は付き合ってた。
そして、仁はマダム凛子に振られた。
多分、それは間違いないだろう。


つまり、マダム凛子は仁の元カノ。
でも、2人が憎み合ってる様には思えない。


だから今回の企画もピンク・マーベルが選ばれたのかもしれない。
仁は最高のコネを使ったんだ…


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