涙と、残り香を抱きしめて…【完】

次の日、会社に行くと、コールセンターの部長に呼ばれた。


「島津課長、君、今度のマダム凛子との共同企画でモデルをするそうだね?
さっき社長から連絡があって、暫くはそっちの仕事を優先させたいと言ってたよ」

「すみません。ご迷惑をお掛けします」

「いやいや!!社運が掛った大切なプロジェクトだ。
こっちの事はいいから、頑張りなさい。
それと、今日から出社後は、ここじゃなく社長室に来る様にという事だ」

「そうですか。分かりました」


私は恐縮しながら部長に頭を下げると、社長室に向かった。


なんだか申し訳ないな…そんな事を思いながら社長室の扉をノックする。


「失礼します。島津です」

「やあ、おはよう。星良」


私を待っていたのは、社長と編集者の工藤さんだった。


「星良、これから君をレッスンしてくれるモデルスクールに行ってもらうよ」

「えっ?今から…ですか?」

「そうだ。私はもう出ないといけなから、詳しい事は工藤さんに聞きなさい」


それだけ言うと、社長は迎えに来た秘書の田村さんと部屋を出て行った。


うわっ…。工藤さんと2人っきり、彼女苦手なんだよなぁ~…


なんて思いながら工藤さんをチラ見すると、すました顔で立ち上がる。


「行くわよ」

「は、はい!!」


会社のビルの前でタクシーを拾うのかと思いきや、ズンズン歩き出す工藤さん。
彼女の後を黙って着いていくと、あるビルの前で立ち止まった。


「ここよ」

「ここ…ですか?」


見上げたビルの2階の窓には『KIRIKOモデルスクール』という文字が…


古めかしい怪しげなビルに少々ビビリながら階段を上がると、薄暗い廊下の先にドアが見える。


そのドアを開けると、工藤さんが深々と頭を下げた。


「おはよう御座います。桐子(きりこ)先生」


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