涙と、残り香を抱きしめて…【完】
ガランとしたレッスン室の奥でパイプ椅子に座り、携帯をいじっていた女性が視線だけをこちらに向けた。
「あぁ、おはよう。
その娘が凛子が言ってたモデル?」
「はい。素人同然ですが、宜しくお願いします」
「仕方ないわね…凛子の頼みじゃ断れない…」
携帯をパタンとたたみ大きなため息を付いて立ち上がった女性。その姿に息をのむ。
年齢はマダム凛子と同じくらいだろうか…
でも、そのスタイルと立ち姿は現役のモデルにも負けないほど美しい。
「あの…島津星良です。
宜しくお願いします」
慌てて頭を下げる私を、頭のてっぺんからつま先まで舐める様に眺めたと思ったら、不満気な顔で言う。
「そんな格好でレッスン受ける気?」
そんな事言われても、突然行けと言われたんだもん。レッスン用の服なんか持ってない。
「スーツじゃ…ダメですか?」
「はーっ…。まぁ、いいわ。
取り合えず歩いてみて」
わぁ…またウォーキングか…
マダム凛子に最悪と言われたウォーキングを披露すると、案の定、ダメ出しの嵐。
「ちがーう!!足だけで歩くんじゃない!!腰から歩くの!!」
「ダメダメ!!もっと顎を引いて!!背筋を伸ばしなさい!!」
そして、極めつけは…
「アンタ、ホントにモデル?
凛子ったら、何を思って大切なショーのモデルにアンタを選んだの?」
そんなのこっちが聞きたいわよ!!
もう泣きたい気分…
桐子先生の罵声に耐えながら、ようやく2時間のレッスンが終わった。
もう足はガクガクで立っているのがやっとの状態。
そして、丁重にお礼を言い
工藤さんとレッスン室を出ようとした私に、更なる試練が…
「あ、そうだ!!島津さん、今月中に3㎏落としなさいね」
え゛…今月中に…3…キロ?