涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「えっ?マダム凛子を世に出したは、工藤さんなんですか?」
「そう。まだ駆け出しの編集者だった私は、大した仕事を任せてもらえなくて悶々としていたの。
そんな時、ある大学の卒業イベントのファッションショーの取材で名古屋に来たんだど、ハッキリ言って全然、乗り気じゃなかった。
学生のショーなんて…って、バカにしてたのよ。
でも、ショーを見た私は衝撃を受けたわ。
斬新で発想豊かなデザイン…
とても学生が作ったモノとは思えなかった。
興奮したわ…
このデザイナーを、なんとしても世に出したいと…」
「それが、マダム凛子だったんですね?」
「…え、えぇ…。
マダム凛子とは、それからの付き合いなの。
もう、20年くらいになるかしら…
だから、彼女の考えている事は誰より分かってるつもり。
デザイナーと編集者と言うより、もう家族みたいな存在なのよ」
そうか…。だからマダム凛子は私の事も工藤さんに任せたんだ。
「今回のショーは、おそらくマダム凛子が日本で行う最後のショーになるはず。
だから、何がなんでも成功させないといけないのよ。
中途半端な素人モデルに大切なショーを台無しにされたら堪らないからね。
島津さんもそのつもりで頑張ってちょうだい」
「は、はいっ」
最後にしっかり釘を刺されてしまった。
「じゃあ、それを食べたら、午後からはフィットネスクラブで筋トレね」
「ええーっ!!」
そんなぁ~もうヘロヘロなのに~…なんて言っても許してもらえそうに無いか…
で、工藤さんに連れて行かれたフィットネスクラブに着いてビックリ!!
「ここは…」
「何?」
「私、ここの会員なんです」
そこは以前、仁に連れて来てもらったフィットネスクラブだった。